うっかりミス急増? うつ病性の「仮性認知症」かも

投稿日:2015年11月2日|カテゴリ:医療コラム

初期の認知症を疑われた人の中には、うつ病が原因で認知症のような症状が起こっている場合もあります。このような状態は「仮性認知症」として認知症とは別に考える必要があります。今回は治療によって大幅な改善が望める「仮性認知症」について紹介します。
■治療で改善!うつ病が原因の仮性認知症
仮性認知症とは、うつ病が原因で発症するもので、最近、テレビの健康番組などで「新型認知症」として取り上げられ注目を浴びています。これは認知症とはまったく異なるメカニズムで起こるもので、早期発見、早期治療で劇的に改善が望めます。
『新型』と呼ばれたりしますが、仮性認知症は以前から知られている病気で、社会の高齢化に伴い近年増加しています。通常の認知症とは治療法が異なるので、診断では、うつ病、 もしくは認知症であるか否かの判別が重要になってきています。うつ病性仮性認知症は以前、たとえ放置しても本格的な認知症には移行しないといわれていた が、適切な対処をしないと、加齢などに伴い本当の認知症を起こすリスクが高いことが最近になって分かってきました。つまり、うつ病性仮性認知症は認知症予 備軍といえるのです。では、うつ病性仮性認知症と、認知症は、どこが違うのでしょう。
■前頭葉の機能不全が原因
脳のメカニズムでいえば、認知症で最も多いアルツハイマー型認知症は、海馬の機能不全で起こりますが、うつ病が原因の仮性認知症は前頭葉の機能不全で起こります。
もともと前頭葉は加齢の影響を受けやすく、前頭葉の血流量は20代に比べ80代では20%低下するといわれています。うつ病性仮性認知症になるとさらに前頭葉への血流量が低下します。脳の血流量を調べるSPECT画像検査で調べると、その差は歴然としています。

前頭葉は注意力、集中力、段取りなどをつかさどる部位なので、うつ病性仮性認知症になると、日常生活の中で、うっかりミスが多くなります。
例えば、妻から「お父さん、私出かけるから、ここに書いてある5つの物を買っておいてね」と頼まれた夫が、「ああ、分かった、分かった」と返事をしたにも かかわらず、妻が帰宅したときにはまだ買い物に行っておらず、「お父さん、忘れたの?」と言われて初めて、「ああそういえば…」と思い出すようなミスがそ れです。そもそも人の話を注意して聞いていないなど、注意力が散漫になっているためうっかり忘れてしまうというタイプの物忘れが、このうつ病性仮性認知症 の特徴です。
また、うつ病により自律神経が乱れるため、頭痛、食欲不振、睡眠障害などの身体症状を引き起こすのも、この仮性認知症の特徴です。

■2項目以上あれば要注意! うつ病性仮性認知症チェック
前ページで説明した「あれ、何するんだったっけ?」というタイプの物忘れに加え、下記の項目が2つ以上当てはまる場合は、うつ病性仮性認知症の可能性が高いと言われています。
1.便秘が多い
2.肩こりや頭痛に悩まされている
3.以前に比べ食欲が落ち、体重が減ってきた
4.夜中に目が覚めてしまう
5.以前より疲れやすくなった
うつ病性仮性認知症の原因は、ずばり加齢とストレスです。先に述べたように、前頭葉の血流量は加齢とともに低下します。そのため、注意力、集中力が低下して、若い頃と同じように仕事ができなくなります。これが第一のストレスです。
また、加齢に伴う生活環境の変化、たとえば、定年退職や、配偶者や近親者の死なども大きなストレスとなります。
こうしたストレスにさらされ続けることにより、前頭葉の血流量がさらに低下して、前頭葉の神経伝達物質が減少。自律神経の働きが悪くなり、便秘、頭痛、肩こり、食欲不振、倦怠(けんたい)感、睡眠障害など全身にさまざまな症状が起こります。
人によっては、こうした症状から、自分はがんなどの大病になったのではないかと、不安になり、それがさらにストレスとなって、前頭葉の血流量を低下させて しまいます。これら一連のストレスのスパイラルがうつ病性仮性認知症を悪化させる原因となるのです。よって、うつ病性仮性認知症にならないためにはストレ スをためないことが最も重要です。