血液のがん「多発性骨髄腫」、共存の時代へ ~ 正常な細胞を移植 薬物治療も進歩 ~

投稿日:2015年4月6日|カテゴリ:医療コラム

多発性骨髄腫は骨の中にある骨髄で異常な細胞が増える血液のがんで、腰痛だと思ったらこの病気だったというケースもあります。治療の難しい病気の一つですが、最近はさまざまな薬が登場するなど治療法も進歩しています。専門家は「患者と医師らが協力し、病気とうまく付き合っていけるとよい」と話します。

多発性骨髄腫は中高年に多く、女性より男性患者がやや多いとされています。年間10万人あたり3~4人が発症し、国内の患者数は約1万3000人とみられています。

発症の原因は、骨髄の中で免疫に携わる形質細胞と呼ぶ細胞のがん化です。通常は全身の複数の骨が侵されるために多発性骨髄腫と呼ばれています。この異常でがん細胞が増えると、赤血球や白血球をつくる役割を持つ造血幹細胞が減り、貧血や免疫力の低下などを引き起こします。

■健康診断で発見
症状の中には、異常なたんぱく質ができて腎臓内で詰まり腎不全になったり、骨を溶かす破骨細胞が刺激されて骨がもろくなったりするケースもあります。

さらに、本人に自覚症状がなく、健康診断などで病気が見つかる場合も多くあります。ある患者さん(50)は会社の健康診断で血液中のたんぱく質の量が多いと診断され、検査をすると多発性骨髄腫の前段階にあると分かり、2年の経過観察の後、異常な細胞の活動が活発化し、幹細胞を移植する治療を受けました。現在も週1回通院し、薬の投与を続けています。

多発性骨髄腫の治療は、65歳以下の患者さんでは「自家造血幹細胞移植」と呼ぶ方法を実施する例が多くあります。この方法は最初に正常な幹細胞を取り出しておき、抗がん剤で骨髄内の細胞を全て除去した後で、幹細胞を体の中に戻して骨髄を再生する方法です。この方法の治療効果は高いですが、骨髄が再生するまで感染症の危険があり、一定の体力が求められます。
65歳超の患者さんは薬物治療が主になりますが、本人の体調次第で移植をする例もあるといいます。細胞移植をした後も薬を投与し、再発防止を目指します。

薬物治療も進歩し、近年はさまざまなタイプの薬が登場しており、基礎研究が進歩により治療にいろいろな戦略が取れるようになってきています。

たとえば06年に保険適用された「ボルテゾミブ」はプロテアソーム阻害剤と呼ばれ、異常細胞が自らに有害なたんぱく質を分解する仕組みを壊し、細胞を殺します。最近では「カルフィルゾミブ」という薬も国内で臨床試験が進んでいます。
また、約50年前に胎児に重大な薬害をもたらした「サリドマイド」も、その後の研究で異常細胞が周囲に血管を呼び寄せて栄養をとろうとするのを阻む作用が見つかったため、多発性骨髄腫の治療に使われています。

「サリドマイド」以外に、直接細胞を殺す作用を併せ持つ「レナリドミド」という薬もあります。治療効果がさらに高い「ポマリドミド」も今年3月に国の承認を得けています。これら3種は厳重な安全管理の下で使うことになっており、妊娠中の使用は避けるとしています。

こうした薬以外でも実用化に向けた取り組みが進んでいます。多発性骨髄腫を発症すると生存期間が3年程度といわれてきましたが、現在10年以上のケースもあり普通に仕事や家事を続けられる人も増えています。

■最新情報収集を
「多発性骨髄腫の根治は難しいが、共存していく考え方がこれからは重要だ」と強調する専門家もいます。
その理由として、最新の治療法でがんの増殖などを抑えつつ、薬が効きにくくなったら新たに登場した薬を使う方法で、生存期間を延ばせる可能性があるからです。

そのためにも患者さんやその家族は、治療法の最新動向などをつかんでおく必要があります。
患者さんの中には発症後、海外の文献を読み進めて多発性骨髄腫について猛勉強した方もいます。診断を受けた当初は「生存期間は3年程度」という言葉に落ち込みましたが、家族の「3年の時間は泣いて暮らすには長すぎるよ」という言葉をきっかけに、気持ちを切り替えたといいます。

さらに、多発性骨髄腫の患者や家族らでつくる「日本骨髄腫患者の会」というものがあります。患者の会が主催する治療法に関する勉強会に出席したり、発刊される情報誌を読んだりなど、情報に触れるのもよいことですね。

最後に、多発性骨髄腫を発症した人はまず自分の病状をよく理解することが大切です。どんな症状でも主治医にきちんと相談して医師と患者が協力しながら、病気に対処する姿勢は欠かせません。