がんと不妊(上)

投稿日:2015年3月9日|カテゴリ:医療コラム

若くしてがんにかかると、治療は成功しても、その後に子供を持つことが難しくなるケースがあります。このケースは子宮などを切除した女性に限らず、白血病や乳がんで抗がん剤を使う場合などでは男女とも該当し、精子・卵子がうまく作れなくなる可能性があります。子供を持ちたいという患者の意向に配慮し、治療を優先させながら将来の不妊を避けようとする取り組みも始まりました。

【抗がん剤ダメージ】
12年11月には、がん治療と生殖医療の連携を目指すNPO法人「日本がん・生殖医療研究会(JSFP)」が設立されました。その中心となった聖マリアンナ医科大学の鈴木直教授は「治療後の人生が長い若いがん患者にとって、生活の質の向上はとくに大事だ。将来、子供を持てるかもしれないという希望を持って治療に臨めることが望ましい」と話しています。
がん治療は抗がん剤、手術、放射線が柱になります。女性ではそれら治療で卵巣の機能を維持できるかが重要になります。若い患者も多い乳がんや、白血病などでは抗がん剤や放射線の影響で卵子がダメージを受けやすくなります。月経が治療後に再会する例もありますが、そのまま閉経するなどして自然妊娠が難しくなる人もいます。
年齢や薬剤の種類、治療期間などで卵巣への影響の出方は個人差が大きくなります。

【卵子や卵巣を治療前に凍結〜出産可能性残す取り組み】
女性の妊娠機能を保つための試みの一つが、受精卵や卵子の凍結保存です。治療前に卵子を採取するか、パートナーがいる場合はより凍結に強い受精卵の状態で保存する例が多いです。不妊治療の技術として確立しており、取り組む医療機関も全国で40ヵ所を超えます。
妊娠機能の温存法実施に不可欠なのが「がん治療と生殖医療の連携だ」(鈴木教授)。
地域の医療機関が連携して妊娠を希望するがん患者を支援する先進的な取り組みも始まりました。その一つが、岐阜大学の森重健一郎教授らが13年2月に発足させた「岐阜県がん・生殖医療ネットワーク」です。県内の25施設程度が加わっています。

■乳がん治療と生殖医療の流れの例
乳がんと診断

妊娠希望がある場合の妊娠機能温存方法
1)採卵して対外受精後凍結保存
対象年齢:思春期以降
特徴:出産にいたる確率が高い。パートナーが必要。

2)採卵して凍結保存
対象年齢:思春期以降
特徴:高い技術が要る。パートナーがいなくても可能。

3)卵巣組織凍結保存※
対象年齢:思春期以前での可能
特徴:研究段階。比較的に短い期間で採取できる利点がある。
卵巣にがんが入る可能性がある場合は不適。

※腹腔鏡などで患者の卵巣を採取して小片にして凍結。がん治療を終えた患者の体内に移植すれば卵子が形成され、自然妊娠や体外受精が可能になる。

術前の抗がん剤治療

手術

経過をみながら生殖医療へ

【納得して方針選択】
岐阜県では、妊娠について知りたいがん患者は、主治医の紹介により岐阜大学病院がんセンターの「がん・生殖医療相談外来」でカウンセリングを受けることができます。がんの状態など一定条件を満たせば、卵子凍結などができる施設を紹介します。温存終了後、すぐにがん治療を始めます。

患者の多くは漠然と不妊への不安を持っています。実際は、がんの状態などから妊娠機能の温存が難しい場合も多くあります。このため抗がん剤の影響や年齢との関係、がんの再発リスク、再生医療の成功率、費用など判断材料となる情報を伝えています。

相談した女性患者の56人のうち4割は相談のみでがん治療に戻り、受精卵や卵巣組織凍結などの実施したのは2割以下でした。古井辰郎准教授は「目的はがん治療を納得・安心して受けられるようにすること。妊娠機能温存の可能性を患者、がん治療医、生殖医療医が一緒に考えることが大切だ」と指摘しています。