「意思に反して便失禁 負担少ない電気療法に注目」

投稿日:2014年9月8日|カテゴリ:医療コラム

【高齢者に多い便失禁とは】

大便が本人の意思に反して漏れてしまう便失禁は、生命には直接関わらないものの生活の質を大きく低下させます。国内に500万人以上の患者がいる とみられますが、恥ずかしさから受診をためらって、病気を抱えたままの人も多いそうです。体内に埋め込んだ装置による電気刺激で症状改善を目指す治療法が 今年から保険適用になるなど、最近は治療法選択の幅も広がっています。

【便失禁の原因】

便失禁は高齢者に多く、海外では70歳以上のうち7~8人に1人が患っているとのデータがあります。また、患者の大半が恥ずかしさなどから医療機関を受診しないという国内の調査結果もあります。
便失禁の主な原因は肛門を締める筋肉である「括約筋」の収縮力が弱まることです。肛門はこの筋肉の働きで、通常はむやみに大便が漏れ出ることはあ りません。しかし、年齢を重ねるなどして筋肉が弱まってしまいます。排便しようとしない時でも、直腸内部の粘液や便が外に漏れ出す。この結果、知らないう ちにパンツを汚したり、便意を感じたときにトイレまで間に合わずに漏らしたりします。
また、加齢のほかに、出産や外傷、直腸がんなどの手術で括約筋を損傷して発症するケースも多いです。脊髄などの病気が関係することもあります。

【便失禁の治療法】

■保存的療法

便失禁の症状改善で、まず候補となるのが患者の負担が比較的少なく、実施しやすい方法です。繊維分の多い野菜をとったり、アルコールやコーヒー の摂取を控えたりすることによって、便が硬くなり漏れにくくなるなどの効果が見込めます。食事の後に必ずトイレに行くよう習慣づける、トレーニングで括約 筋を鍛える、といった手法も効果が期待できます。
便秘治療などで使う下剤の量を減らしたり、下痢止めなどの薬を服用したりすることも多く、こうした治療で患者の約7割で症状が改善されます。

■外科手術

保存的治療法でも十分に改善しない場合は外科手術を考えます。例えば、傷ついた括約筋を縫い合わせる。足から取った筋肉を肛門の周囲に移植して括 約筋の働きを補ったり、人工肛門を付けたりすることもあります。しかし、大きな手術になると、感染などの合併症のリスクがあるほか、大腿部などに傷が残る など、負担が大きく手術にまで至る例は1割以下にとどまるといいます。

■仙骨神経刺激療法

保存的治療法では効果がなく、外科手術はリスクが大きすぎるといった方々に期待が集まるのが、今年4月から国の保険が利くようになった「仙骨神経 刺激療法」です。外科手術の一種ですが、体への負担や術後に残る傷が比較的小さくて済む利点があります。骨盤にあり、排便を調整している仙骨神経を電気パ ルスで刺激し、症状を改善する仕組みです。

手術は2回に分けて実施します。まず仙骨神経を刺激するための細い電線を体内に埋め込み、体外の装置で電気パルスを発生させ、電線を通じて神経を 刺激し、1~2週間効果を確かめます。これで症状改善がみられれば、心臓ペースメーカーに似た刺激用装置を腰の皮膚の下に埋め込む手術をする。合わせて 2~3週間の入院が必要ですが、腰に小さな傷が残る程度で済みます。電気刺激によるピリピリとした感覚が出ない範囲で電圧を調整し、刺激の強さは体外から リモコンで調節できます。装置の電池は3~5年で交換します。

国内で実施した臨床試験(治験)では21人に刺激用装置を埋め込み、半年後に18人で便失禁の頻度が半分以下になり、4人は完治ました。米国では 120人に埋め込み、88人で失禁頻度が半分以下になったという。食生活の工夫やトレーニング、薬の服用などで、効果がみられない方々は従来の手術をする しかありませんでしたが、この仙骨神経刺激療法により新しい可能性が開けました。

便失禁の頻度やタイミング、専門の検査の結果などのより実際にどの治療法を選ぶか、医師と相談して決めます。出産経験のある女性は、会陰を切開する処置を受けたかどうかを医師に伝えるとよいでしょう。